無人駅「上米内(かみよない)」の挑戦

岩手の小さな無人駅

岩手の盛岡駅から山田線で4つ目の駅、
「上米内(かみよない)」


去年から無人駅になりました。

1日の乗降客数は約60人。秘境駅というほどでもないのですが、周辺住民は主に車生活なのでほとんど電車を使わない。無人になってがらんと荒れてしまった駅舎はもの悲しい。

この駅舎を活用して地域活性化しよう!
という面白い取り組みが始まっていました。
 

上米内で始まったウルシの挑戦

主宰者で、近隣でウルシの木の植栽をしている一般社団法人次世代漆協会 代表理事の細越確太さんを訪ねてきました。
 



細越さんは、私有地の山に古い搔き痕が残る木を偶然見つけたことから漆に興味を持ち、



自給率わずか3%ほどまで減ってしまった国産漆を残すために貢献したい、まずは木がなければと、山を開墾し、数千本のウルシの苗木の植栽をはじめました。

訪問時はあいにくの雨でしたが、植栽地を見せていただきました。



泥んこ山道を軽トラで上がっていくと現れた少し開けた場所。木が伐採されています。
天気が良ければ、木々の間から、岩手山がきれいに見えるそうです。



ふかふかの土に植えられたたくさんの小さな苗木。
1本1本、手で結び付けられたピンクのテープが目印です。


植栽地は2箇所。
植えられた苗の数、今年の春に約400本、そしてなんと、この11月には3000本!

もちろん、細越さんおひとりで植えることはできません。県内はもちろんのこと、全国各地から応援ボランティアたちが毎週末やってきて、大規模な植栽を完了しました。

植栽以外にも仕事はあります。
今後植えていくための苗の育成、確保も重要な取り組みです。

この日は雨だったので、みんなで種の処理を。




ウルシは育て方についての情報が十分ではなく、皆で試行錯誤を続けています。
鹿による被害もかなり深刻です。若い芽や木の皮を食べてしまったり、大きな体で小さな苗木を折ってしまったり。来春までに電気柵を付ける予定ですが、費用の捻出も課題。

もう一つ挑戦があります。ここで植えられた木々は、伝統的な漆掻きで採取するほかに、新たな機械式採取方法の研究のために役立てられます。

どうすれば、需要の3%程度まで落ち込んでしまった国産漆の生産を守ることができるのか、
需給バランスが崩れて困難になりつつある上質な漆の確保を再度安定させ、いま不安を抱えている多くの漆器の作り手たちを安心させることができるのか、
担い手が少なくなってしまった山仕事を生業として復活させられるのか、

ときに悩み、ときに里山で土に触れることを楽しみながら、細越さんたちの挑戦は続きます。

 

上米内駅を活動拠点に!

この活動地の最寄駅が、無人駅となってしまった「上米内」です。



細越さんと仲間たちは考えます。

もっと地元を元気にしたい、
植栽活動の応援に集まってくれる人たちをもてなしたい、
地元の人たちとの交流を生み出したい、
漆の植栽活動ももっともっと盛り上げたい!

そうだ、駅舎に地元の人も植栽活動の参加者も旅人も、
みんなが気軽に使える漆のカフェと工房を作ろう!

 

漆の駅で、地域を元気にしたい!

その思いは、
このたびJRの無人駅活用案募集に応募して採択されました!



新生「上米内駅」は、2020年春のオープンを目指しています。
(上の写真はイメージ図)


舎内には地元のおばあちゃんたちもふらりと寄れるような気軽なカフェスペース(というよりお茶っこスポット)を作ります。無人駅好きの旅人とおしゃべりしてくれていたらいいなぁ。

カフェの横には漆器工房を作ります。いつか地元産の漆で拭き漆体験ワークショップもしたいぞ。

ウルシの植栽活動は先が長い。
植えた苗木は、漆の採取ができるようになるまで山の中に放置しておけば育つのではなく、下草を刈り、病気をチェックするなど、手入れが必要。
そもそも国産漆は全く需要に追い付いていない状況なので、まだまだ木を増やしていかなくてはならない。

これからますますボランティアたちがこの駅に集まってくることでしょう。


近くには軽い登山が楽しめる高洞山(たかほらやま)があるし、駅のホームには桜の古木。



近くの浄水場は有名な枝垂れ桜のお花見スポットなのだとか。

桜が見頃を迎える頃、漆の駅「上米内」が生まれます。




取材地:JR東日本 山田線 上米内駅
    一般社団法人次世代漆協会 https://www.zisedai-urushi.org/
 

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