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加賀 山中を訪ねて ~伝統を支える革新~

温泉地で栄えた山中漆器

石川県加賀市の山中(やまなか)を訪ねました。

山中温泉、と言うとご存じの方も多いかもしれません。



金沢から車で1時間ほど。美しい渓谷に沿って続く女子旅にも人気の温泉地です。






そしてこの山中は、全国でも有数の伝統ある漆器の産地。



山中漆器。

温泉地で漆器産地?


いずれも長い歴史を紡いで今に至っていました。

山中温泉は約1300年前、奈良時代に高僧 行基(ぎょうき)が開湯したと伝えられています。
山中漆器は、約450年前、安土桃山時代に越前(福井)から轆轤(ろくろ)の技術を持つ木地師(きじし)が移住してきたことで興りました。以降、松尾芭蕉や文化人も多く逗留した温泉地の土産物や、加賀の茶人たちが所望する茶道具を作り、発展してきました。



 

「木地の山中」

現在、山中では樹脂製などの合成漆器を含む様々な漆器を生産していますが、
同時に、全国随一の漆器の木地の産地として、日本の漆器産業において大きな役割を果たしています。



木地とは、漆器に漆を塗る前の木の素地。



山中は特に丸物(まるもの)と言われる、轆轤を使ったお椀や棗(なつめ)などの円形のものを得意としています。また、加飾挽き(かしょくびき)と言われる、轆轤を回しながら刃物で木地に模様を付けていく特殊技法は、他の地域では類を見ない山中の匠の技です。

漆器というと漆を塗ることに注目が集まりがちですが、思い描く漆器を形作るためにはベースとなる木地が無くてはなりません。山中には重要無形文化財保持者(人間国宝)を始めとして優れた木地師が全国で最も多く活躍しています。

石川県の中でも「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と言われることからわかる通り、輪島塗はもとより、全国の漆器の木地を実は山中で挽いているということも珍しくはないのです。


 

若手育成とサポート環境

多くの伝統産業と違わず、山中も職人の高齢化は大きな課題となっていますが、
一方で山中には全国から木地轆轤の技術を学びたい若者たちが集まってきます。
彼らが目指す場所の一つである石川県挽物轆轤技術研修所と、併設された県運営のレンタル工房を見学させていただきました。



研修所は山中漆器産業センターのなかにあります。基礎コース2年・専門コース2年というカリキュラムで、毎年約5名ずつ研修生を受け入れています。轆轤の技術を中心に、漆器に関する全般的な知識と技術、また茶道などを通じて漆器以外の工芸・美術の知識も習得することができます。

​​レンタル工房は、平成30年4月、若手木地師の開業のサポートを目的に2部屋開設されました。

ゼロから開業するためには、木地を挽く轆轤や、刃物を手入れする鍛冶道具などの、大きな設備投資を伴います。実家が木地師である場合を除き、若者が独立するのはなかなか大変なのです。



最大3年間、木地師の仕事に必要な設備と環境を提供するこのレンタル工房。全国的に木地師が足りない状況にあるなか、将来有望な若手の開業を支援するとても頼もしい取り組みだと感銘を受けました。


現在、2名の研修所卒業生がこの工房を利用しています。
そのうちの1人、畑尾勘太さん。



研修所を卒業後、いったん木地師のもとで修業。この工房が開設されたのを機に独立しました。​​この工房を出る2年後の完全な独立起業を見据えて、現在さらに腕を磨いています。
目をキラキラさせながら仕事を見せてくださる畑尾さんは、とても希望に満ちていて魅力的でした。


 

職人技xデザイン が繋ぐもの

もう1箇所、もう1人、山中で必ず訪ねたかった場所と人。

それは、優れた轆轤技術と美しいデザインによって、海外でも人気の高い製品を次々と生み出している株式会社我戸幹男商店の直営店。

「GATOMIKIO/1」




そして、代表取締役の我戸正幸さん。


実は、前述の若手木地師、畑尾さんを紹介してくださったのも我戸さん。
我戸さんにはFEEL J の設立前から、山中のこと、木地のことを教えていただいています。


GATOMIKIO/1は山中温泉のメインストリート、ゆげ街道沿いにありました。

他の漆器店とは一線を画す洗練された店内には、国内外のプロダクトデザイナーとコラボレーションしたクールなデザインの漆器がセンス良くディスプレイされています。




どうぞと出してくださったアイスコーヒーのカップもその一つ。



均一に美しく入った筋目は、山中の木地師が得意とする加飾挽きによるもの。

ここに並ぶスタイリッシュな製品がすべて、自然の木と木地師の匠の技によるものであることを思うと、日本の木の文化と技術から生まれた現代の美のかたちに感動します。


「カッコイイ物が作りたかっただけですよ」と笑う我戸さんですが、
山中という産地と職人たちへの真摯な姿勢、情熱、愛情が、強く強く伝わってきます。

山中漆器の強みも課題も深く理解したうえでの、山中の木地師の高度な技術が無くては実現しえない先進的なデザインを取り入れたモノ作り。

デザインとはまさに発想の転換。
伝統工芸品でもない、日用品でもない、新たな世界が生まれました。
そしてその新しいモノ作りが、伝統工芸品を支える木地師の技術保存継承につながっています。


「GATOMIKIO/1」
ぜひ足を運んでほしい空間です。

2019年10月11‐13日には、山中温泉と山中の漆器工芸をまるごと体験して楽しむ街を上げてのイベント「around」も企画されています。
この機会に訪れてみるのもいいかもしれません。


 

加賀 山中ならではの工芸文化は世界へ

もうひとつ、加賀で見つけたことがありました。

山中温泉がある加賀市には、もう一つの伝統的な工芸品として、陶磁器の九谷焼があります。

ふと気づきました。
町で見かける、何気なく飾られたり使われたりされている金継ぎされた陶磁器がなんと多いこと!



今までも焼き物の産地をいくつか訪れましたが、これほど頻繁に金継ぎ作品に出会うことはありません。

なぜでしょう。

勝手な推測ですが、、、

まずは九谷焼の鮮やかな色絵には金継ぎが似合うから。
鮮やかな骨董の大皿に盛り上がるように大胆に継いだ金も、シンプルな湯飲みの小さな欠けを埋めた上品な金も、どちらもそれぞれに素敵でした。


 

そしてもうひとつの理由は、身近に山中漆器の作り手がいるから。金継ぎには、漆工とほぼ共通する材料と技術を使います。すなわち、金継ぎの担い手が多くいるのです。

身近に金継ぎのある風景。
漆器と陶磁器の作り手が共存する加賀の町ならではの文化ではないでしょうか。

世界でコレクションされている九谷焼。
世界から注目される山中の木地。
いま世界中で人気上昇中の金継ぎ。

山中温泉にも金沢から足を延ばす外国人観光客が増えているそうです。きっとますます、加賀ならではの工芸文化が世界に発信されていくにちがいありません。
これからの加賀がとても楽しみです。



取材ご協力:「GATOMIKIO/1」
http://www.gatomikio.jp/1/index.html

 

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