木曽漆器を訪ねて 木曽平沢

訪問必須!「木曽漆器館」

木曽漆器の産地、長野県塩尻市木曽平沢地区に行ってきました。

最初に訪問したのは「木曽漆器館」。
素晴らしいです!


漆器の展示も感動的なのですが、
館内に入ってまず感じるのは木の香り。

床はナラの木、階段は栗の木、そして館内の柱や棚には杉の木が使われています。
築17年にも関わらず、いまも館内は木のいい香りに包まれているのです。

展示は原料の漆の木から始まり、工程ごとに細かく説明と資料が並びます。
 

つづいて中山道の旅人のお土産や、庶民の生活道具として発展してきた木曽漆器。

 

これは木曽漆器の特徴の一つです。
大名や豪商の保護を受けて発展したのではなく、
江戸と京都を結ぶ中山道沿いで、お伊勢参りや善光寺参りの旅人のお土産として、
宿場町の生活道具として、すなわち庶民のための漆器として発展してきたのです。

 

館内を進むと、立派な座卓が展示してありました。


この大きなテーブルにも木曽の特徴が見られます。
木曽は漆器づくりが盛んですが、美しい山林から産出される樹木も豊富にあります。
これを活かした家具作りもこの地域の特産品でした。

そしてこの座卓の塗りですが、何色かのマーブル模様のようになっています。

これは別の作品のズーム写真ですが、この方が分かりやすいかもしれません。
この塗りの技法を「木曽堆朱(きそついしゅ)」と言います。
朱色ではなくても堆朱と呼びます。
何色かの漆を凸凹が出るように塗り、その上からさらに漆で一度塗り固め、最後に研ぎ出していくという大変手間のかかる作業ですが、一つとして同じものがない、唯一無二の作品として仕上がります。

 

展示はさらに続きます。

もうひとつ、木曽漆器の特徴的なものの展示がありました。


これは何でしょう。


答えはこの地域の川から採取される「錆土(さびつち)」。
明治時代にこの錆土が見つかったことによって、木曽漆器は輪島塗や京漆器に負けない堅牢な漆器を地元材でつくることができるようになりました。


この設備に川の水ごと土を流し、錆土を沈殿させて採取します。

 
展示されているのは木曽の漆器だけではありません。


人間国宝の作品もたくさんありました。
他産地の漆器や歴史資料も多数。

その収容資料数は合計なんと3700点以上!

漆器そのものはもちろんのこと、
漆器ができるまでの材料や道具、昔の漆器屋の商売道具など、



とにかく見ごたえがあります。
漆器に興味のある方は必見の資料館です!

 

木曽平沢の街並み

木曽漆器館を後にして、


奈良井川を渡って、木曽平沢の街を歩いてみました。


趣のある漆器屋さんのギャラリーが昔の風情を残したまま軒を連ねています。


この木曽平沢は、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
多くの保存地区が、保存のための街であるのに対して、
木曽平沢は実際に住居として、工房として、生活の場所として
使われながら保存されていることも特徴です。

こんな素敵な場所も見学。

木曽漆器組合の青年部の方々が、筑波大学の学生たちと取り組んでいる古民家再生・地域活性プロジェクト。

この建物の外観はこんな感じ。


正直なところ1階はオンボロ(すみません!)なのですが、
2階の古いガラスがモダンでオシャレ。生かしてほしいです。

こんな素敵なカウンターも作られていました。

漆器工房を見学したことがある方はご存知でしょうか。

塗ったばかりの漆器を漆風呂で乾かすときに使う板を再利用しています。
かなりオシャレなバーカウンターです!

工房も覗いてみます

幾つか工房にもお邪魔してきました。

こちらは伊藤寛司商店。

やはり黒塀の素敵な建物。


職人さんの下地塗りを見学。


伊藤さんにさまざまな木地も見せていただきました。

奥には素晴らしいお庭と縁側。
コーヒーをご馳走になりました。
このコーヒーカップは、伊藤さんのオリジナル「古代あかね塗り」です。

シックな濃いあずき色ですが、使い込むほどにだんだん明るく赤くなっていくのだそうです。
まるで朝日に染まる茜色の空のようなので、古代あかね塗り。
育ててみたくなる器です。


こちらは路地を入ったところにあるオシャレな丸嘉小坂漆器店さんのギャラリー。

こちらはガラスに漆塗りのかわいい作品が特徴的。 

小坂さんは、デザイナーと組んで斬新でかわいい漆器を次々と考案されています。


それぞれ、ひとつずつ職人さんによって手塗りされています。



他にもいくつかの工房を見学させていただきました。 



漆の精製工房も。

 

若手の取り組みが楽しみです!

木曽漆器を巡って感じたこと。
地元の最大の宝である木を活かしたものづくり、
漆器に適した錆土というもう一つの宝、
五街道のひとつ中山道沿いで発展した歴史。

いずれも地元の特徴とリソースを基盤にしっかりと根付いた文化がありました。

そして、もう一つのリソースは人。

若い世代がガラス漆を生み出したり、ギターに塗ったり、革に塗ったり。
伝統を引き継ぎながら新たなものづくりを始めています。

今は趣ある木曽路歩きを楽しむ外国人観光客が増えています。

私が訪ねた日も、木曽平沢や隣の宿場町、奈良井宿で、たくさんの外国人に出会いました。


また、毎年6月と10月に開催される漆器まつりのときにはこの辺りは大賑わいに。

この地で数百年育まれてきた木曽漆器は、いまもなおその歴史を紡ぎ続けています。
これからがますます楽しみな産地です。


 

「木曽漆器館」 http://www.kisoji.com/kisoji/history/shiojiri/sikkikan.html

「木曽くらしの工芸館(道の駅木曽ならかわ)」http://www.kisoji.com/kisoji/history/shiojiri/kisokurashi.html